提言

(1) 提言(過去の大会での提言など)

令和2年1月17日

慶良間諸島の外来イノシシ対策と希少種保全に関する要望書

沖縄生物学会 会長 当山 昌直

 沖縄島の西約 40 km 沖に位置する慶良間諸島は多数の小島で構成され、陸と海とが連続して一体となった特有の景観を有することから、平成 26 年に国立公園に指定され、その島嶼亜熱帯生態系の保全が行われてきました。この地域にはリュウキュウヤマガメやイボイモリなど多くの希少生物が生息しており、そのなかにはケラマトカゲモドキ、カクレサワガニ、トカシキミナミサワガニ、トカシキオオサワガニなど同諸島に固有の絶滅危惧種が含まれています。また、海浜にはウミガメ類の産卵地が散在し、特にアオウミガメに関しては国内で最も重要な産卵域のひとつになっています。

  この慶良間諸島を構成する島のひとつである渡嘉敷島にニホンイノシシが家畜として持ち込まれ、1990 年代までに逸脱、野生化したと聞いております。それに由来する外来イノシシ(ブタ由来の遺伝子を持つイノシシも含む。以下「イノシシ」とする)はその後急速に個体数を増やし、周辺の島々にまで侵入して生態系に悪影響を与えていると考えられます。

  明らかな悪影響のひとつにウミガメ類の卵の食害があり、2016 年の時点で、渡嘉敷島でのウミガメ類の産卵巣の 51%がイノシシにより食害されたとの報告があります。イノシシによるウミガメ卵の食害は、二次的な侵入先である座間味島でも顕在化しており、同島で産卵数が最も多いニタ浜でのアオウミガメの産卵巣の食害率は、2018 年には 6.5%(46 巣のうち 3 巣が食害)であったものが、2019 年には 90%以上(99 巣のうち 95 巣が食害)にまで増加している状態です。

  その他の小動物への影響については、現時点で具体的な報告はないものの、侵入した島々では、渓流沿いや林床などにイノシシにより掘り起こされた跡が非常に多く見つかることから、その影響は大きいと推測されます。例えば、イノシシはサワガニ類やモクズガニ類を中間宿主とする吸虫類の固有宿主あるいは待機宿主であることから、サワガニ類を捕食することは明らかであり、上述した固有のサワガニ類が大きな打撃を受けている可能性は高いと思われます。イノシシは渡嘉敷島と座間味島のほか、少なくとも阿嘉島、慶留間島、さらには無人島である儀志布島と安室島へも侵入しており、小動物への影響は広範囲に及んでいると考えられます。

  このような背景のなか、渡嘉敷村では、主に農作物への被害防止を目的として 2011 年からイノシシの駆除が行われ、年間 80〜120 頭が捕獲されているものの、明らかな個体数の減少には至っておらず、対策は十分とはいえません。また、沖縄県も、2018 年より指定管理鳥獣捕獲等事業として慶良間諸島の外来イノシシの生息状況調査と、主に分布拡大先で1/2ある座間味島での捕獲を開始しておりますが、慶良間諸島からの完全排除を目指す対策としては、これも十分とはいえません。今後、久場島、屋嘉比島など、面積もあり地形も急峻な無人島にも侵入した場合、イノシシの根絶はますます困難になると考えられることから、国、県、村の関係部所が協力して防除体制をいっそう強化し、効果的に対策を進めていくことが強く望まれます。本学会としても学術的な助言が必要な際には積極的に協力する必要があると考えています。

  以上、慶良間諸島の外来イノシシ問題の状況の深刻さと緊急性を鑑み、沖縄生物学会令和元年度第1回評議会では、以下の2点について、関係機関に早急に対応していただけるように強く求めていくことを決議しました。ここに沖縄生物学会として要望いたします。

1. 高度に深刻化しつつある慶良間諸島の外来イノシシ被害の重大さを認識し、関係機関が連携しながら外来イノシシの防除計画を策定あるいは計画内容を強化したうえで、迅速かつ効果的な対策を実施する。
2. 慶良間諸島の希少種に対する外来イノシシの影響評価に向けた調査体制を構築し、希少種の保全対策を迅速かつ効果的に実施する。

連絡先
〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町千原1番地
琉球大学理学部海洋自然科学科生物系内 沖縄生物学会事務局 代表幹事戸田守気付
電話 098-895-8577, 8547 FAX 098-895-8576
E-mail: okibio @ w3.u-ryukyu.ac.jp

 

環境省沖縄奄美自然環境事務所に要望書を提出 沖縄県環境部自然保護課に要望書を提出
環境省沖縄奄美自然環境事務所に
要望書を提出
沖縄県環境部自然保護課に
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