提言

(2) 自然博物館設立要求

平成10年5月24日

沖縄生物学会会長 香村 真徳

県立自然史博物館設立の要請

 沖縄生物学会第35回大会の総会において、「県立自然史博物館設立」を要請することが決議されました。ここに沖縄生物学会として要請いたします。

沖縄生物学会第35回大会総会決議


県立自然史博物館の必要性

世界に誇れる自然

 ご承知のように本県は多くの島嶼から成り立っており、弧状に連なる島々は年中黒潮暖流に洗われ、熱帯から温帯へ移行する亜熱帯海洋性気候帯に位置しています。島は、大昔の大陸との陸橋、沖縄トラフの成立など複雑な地史的変遷を経て海進海退の歴史を繰り返してきました。このような複雑な要因の相互作用により、世界でも類を見ない生物多様性を擁する自然環境が成立したとされています。また、世界的な動物地理区の移行帯に位置し、豊富な種類数を誇るサンゴ礁、オリズルスミレ、ノグチゲラ、リュウキュウヤマガメなどに代表される遺存種や固有種などの特殊な動植物が生息し、世界に誇れる生物自然を備えています。

自然の専門的文化施設

 このような優れた沖縄の自然を生かすためにも、調査・研究し、展示、保管、教育する機能を備えた博物館が必要になります。現在、本県には県立博物館がありますが、これは総合博物館としての性格をもつもので、内容的にも総論的なものにならざるをえません。これだけの自然という財産を利活用するためにも専門の県立自然史博物館が必要です。県立博物館が沖縄一般の総論としてみるなら、県立自然史博物館は各論としての自然の専門的文化施設に位置付けられることになります。このような意味から、沖縄の自然を網羅できる県立クラスの自然史博物館が本県には必要なのです。

自然史研究の中枢

 本県は、動植物だけではなく、気象・海流・地形・地質等どれをとってもユニークで、世界的にも比類の無い優れた自然をそなえています。台風、海洋性モンスーン、黒潮、海底地形、サンゴ礁地形、プレートテクトニクス、火山活動、琉球石灰岩、鉱物、化石、化石人骨など枚挙にいとまがありません。動植物をはじめこれらは有機的につながっているはずですが、これらを統合し研究する施設はありません。
 最近、野生生物センターなどが県内で計画されておりますが、これらはいずれも地域的なものであって、中枢的役割を果たす施設が無いのが現状といえます。このような意味で、沖縄の歴史、文化の背景となる自然をまとめる研究機関が必要なのです。

自然環境保全

 自然環境問題は、社会問題として人々の認識も高まりつつあるのですが、自然環境を正しく認識するための調査研究、展示、保存、教育普及する施設が県内にはありません。このような意味で自然史博物館の役割には大きいものがあります。現在、沖縄の自然に関する資料は散在、または散逸している状況にありますが、これらを一堂にそろえることによって、健全な自然環境の認識を助ける資料になることが期待されます。また、県民が自然環境に関心を持つことがより大きな財産になるといえるでしょう。

理科教育の拠点

理科教育では、実物による体験が重要な学習の手段になります。しかしながら、県内にはそれを提供してくれる理系の専門的施設がありません。近隣の他府県へ見学しようにも、本県では簡単にはできません。それを満たしてくれるのが自然史博物館です。特に離島から成り立つ本県では、少なくとも宮古・八重山諸島にも分館を設置し子ども達の学習機会の均等に努力しなければなりません。また、これらは学校現場の先生方にもいえます。自然史博物館が充実しているならば、博物館は理科教育の研修の場となるでしょう。

観光立県

 産業の少ない本県は観光が重要な資源となっています。目玉として、本県の自然と文化があげられることは衆目の一致するところでしょう。手軽に地元を理解するならば博物館がよいといわれますが、自然を専門的に紹介する県立クラスの自然史博物館施設はありません。このような意味でも県立自然史博物館は必要なのです。

生涯教育

 週休二日制が浸透しつつある昨今、児童・生徒が利用する施設が必要となります。また、個人、友人、家族等で利用する施設も必要となってくるでしょう。しかしながら、文化施設、体育施設などが充実していくなかで、理系施設の拡充は遅れています。特に幼少期は自然現象に関心を持つ時期なので、この機会にすぐれた資料を提供しなければなりません。成長してからは遅いのです。このような機会は、大人が責任をもってつくってやらなければなりません。

着々とすすむ他府県の自然系博物館

 社会的にも自然環境に関心のたかまる昨今、他府県では自然系博物館がととのいつつあります。代表的な博物館として、大阪市立自然史博物館、和歌山県立自然博物館、千葉県立中央博物館、滋賀県立琵琶湖博物館などがあり、研究、教育に重要な役割を果たしています。

まだ日の目をみない自然史博物館

 本県の文化施設の中核的役割をはたしてきた沖縄県立博物館が今では手狭になり、総合博物館として移転拡充する計画がすすめられています。しかし県の財政状況の悪化に伴い、県立現代美術館そして博物館新館構想が暗礁に乗り上げております。そこで先ず将来性のある自然史博物館の構想を練り、現在の財政状況をふまえどのような形でスタートすることができるかを審議する自然史博物館設置準備委員会を設置されることを要請いたします。