学会案内

(1) 沖縄生物学会とは

回顧

池原 貞雄*
Twenty-five Years of Our Society: A Retrospect
Sadao IKEHARA*

 沖縄生物学会創立25周年の節目を迎えたことは、まことにご同慶にたえません。この機会に、本会の運営にかかわってきた者のひとりとして、本会の25年の歩みを回顧してみたいと思います。琉球大学が開学(1950年)してから数年後、県内の生物関係の先輩方が中心になって、琉球生物学会を創立しました。発足の数年間は、順調な歩みを続けていました。ところが、年が経つにつれて活動が鈍り、ほとんど活動が停止する状況に陥ってしまいました。このような事態を憂えた県内の若い生物関係者たちが、生物学会の再興のために、活発な活動を始めました。会員募集に努めながら、創立大会開催準備、会誌創刊の準備、会則案の作成など、精力的な活動が続けられました。そして1964年7月19日の創立大会において、満場一致で創立が承認されました。本会の創立の経過については、本誌1巻1号の巻末記事に述べられています。本会の25年の歴史を、機械的に5年単位で区分して、その期間の事業の特徴を回顧してみたいと思います。

1964-1968年度(基礎づくり)
 この期間は、大会の盛り上げ、会誌の刊行、会員募集などにとくに力点が置かれていたと思われます。学会通信を創刊して会員と学会事務部のコミュニケイションに力を入れ、採集会をとおしての自已研鑽と会員相互の親睦の機をつくることに留意されています。世界のヘビ展を市内のデパートで開催し、本会の存在を杜会的にアピールすることにも心を配っていたことがうかがわれます。
 遠隔地会員の大会参加の利便をはかり、併せて地方の理科教育振興に寄与することを目的として、第5回大会を、北部地区理科教育研究会との共催で、名護で開催されています。引続き陸産・海産動植物の採集会を、本部半島で実施していることは注目すべきことだと思います。

1969-1973年度(自然保護アピール)
 本会が、沖縄の自然に強い関心を寄せ始めた期間であったといえましょう。「沖縄の自然保護」シソポジウムが開かれたり、国頭村における米軍の実弾演習計画の撤回要求声明及び沖縄の自然保護に関する声明を発表しています。また、「尖閣列島の自然」の特別講演も行なわれています。本会が相ついで、自然保護をアピールしたり、シンポジウムや特別講演で沖縄の自然保護問題を取り上げていることから、その頃から沖縄の自然の人為的変革が急速に進められるようになったと推測されます。

1974-1978年度(自然史博物館設立要請)
 沖縄の自然を広く一般に理解させる施設として、県立自然史博物館の設立が必要であるとの決議により、その実現をみるまで、継続的に関係機関に要請していくことになっています。なお、沖縄には天然記念物及びそれに類する貴重な天然物が多いが、開発によって危機に瀕している事態を看過するわけにはいかないとの会員の声が高まってきました。その声を大会がとりあげて、天然記念物担当専門官の定員化を関係機関に要請しています。この期間には、会員の海外の生物研究への関心が高まり、それをうけて、The Western Society of Naturalistsと共催で、北太平洋の海洋生態学の国際シンポジウムが開催されています。さらに、沖縄と台湾の生物相が類似しているので、台湾への海外生物研修旅行を望む声が高まり、第1回海外生物研修旅行として、台湾中・北部と阿里山を訪問しています。

1979-1983年度(中央三学会九州支部合同大会共催)
 第1回海外生物研修旅行に次いで、第2回は、台湾南部の懇丁公園、蘭嶼に出向いています。県内にあっては、琉球大学熱帯海洋科学センターにおいて、「海浜動植物の種類相と帯状構造の解析」のために、初の宿泊夏期研修会が行なわれました。日本動物学会九州支部・日本植物学会九州支部・日本生態学会九州支部合同支部大会を共催しています。その大会では、「琉球列島の生物相をどうとらえるか」のシンポジウムが行なわれました。

1984一現年度(日本学術会議の登録学会)
 国際森林保護年にあたる1985年に、森林保護の重要性を強調するアピール文を関係機関に発送し、また本会が日本学術会議の登録学協会として承認されました。数多い地方生物学会や生物研究会のうちで、本会の学術的な活動が日本学術振興会によって評価されたことは、本会の発展を加速させることになると思います。また、多年にわたって検討されてきた「沖縄県生物目録シリーズ」の刊行事業が、シリーズIとして「沖縄産昆虫目録」の刊行でスタートしました。野生生物の種の保存が、国際レベルで強調されるようになってきたとき、まことに時宜を得た事業と思われますので、会員の力を結集して事業を完遂させたいものであります。以上、本会25年間の歩みのあらましについて述べましたが、それは、本会編集委員会のまとめた「沖縄生物学会のこれまでの活動」に拠ったものです。上記の示すように、本会は25年間で、今日の姿にまで発展してきました。しかし、本会をここまで発展させた縁の下の力もちになった歴代の評議員・総務・編集・会計に任じられた方々及び会員各位の積極的な協力については述べていません。その献身的な働きがあったからこそ本会の今日の姿があることは申すまでもありません。幸いにして、評議員会と事務局による企画のなかで、本会創立にあたって献身的に働いた諸氏の紹介がなされていることは、少しは気の安まる思いがいたします。歴代の評議員・総務・編集・会計のご苦労と会員各位のご協力に対し、元会長としてこの機会をかりて深く感謝中し上げます。会員各位のご活躍によって、沖縄生物学会のますますの発展を心から念じます。

*沖縄生物学会前会長
*The former president, Bio1ogica1 Society of Okinawa