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宮古島で見つかったヤシガニ小型個体とその生息環境
藤田喜久(琉大・非常勤講師 / NPO法人 海の自然史研究所)


  ヤシガニBirgus latro (Linnaeus, 1767)は,オカヤドカリ科に属する大型の十脚甲殻類で,インド−西太平洋の熱帯・亜熱帯島嶼に広く分布している。国内では,奄美諸島以南の琉球列島に分布し,特に宮古諸島と八重山諸島で比較的個体数が多い。しかし近年,開発などによる生息環境の悪化や珍味食材としての過剰捕獲などによって大型個体を中心に減少傾向にあり,環境省・沖縄県のレッドデータブック(RDB)では,絶滅危惧U類に該当している。
 ヤシガニは,成体では貝殻を持たないが,グラウコトエ幼生(最終幼生)に変態後しばらくは,オカヤドカリ類のように巻貝の中で過ごすことが知られている。しかし,野外における本種小型個体の採集例は極めて少なく,生態的にも不明な点が多い。
演者は,宮古島の海岸の潮上帯の転石下から,頭胸甲長(CL)が1〜2cm程度の小型ヤシガニ個体を複数発見した[CL 9.59-21.60 mm; TL 4.22-9.40 mm]。ヤシガニの小型個体は,日中,転石の間や石の下の表土に穴を掘って潜んでいた。いずれの個体も貝殻を持たず,体色はクリーム色を呈し,転石(琉球石灰岩)の色彩に類似していた。また,採取個体の室内飼育によって,ヤシガニ小型個体の「穴堀行動」が観察された他,脱皮周期などに関する若干の知見も得られた。 一方,同所の転石帯には,イワトビベンケイガニ(沖縄県RDBで準絶滅危惧),ヤエヤマヒメオカガニ(沖縄県RDBで準絶滅危惧),ヘリトリオカガニ(環境省RDBで準絶滅危惧,沖縄県RDBで絶滅危惧U類),ムラサキオカガニ(環境省RDBで準絶滅危惧,沖縄県RDBで絶滅危惧TB類)などの稀少種も生息していた。潮上帯の転石帯は,生物の生息環境として従来さほど重要視されておらず,現在も道路拡張などの開発の影響を受け続けているが,本研究により,ヤシガニ小型個体をはじめとする希少な十脚甲殻類の生息環境であることが明らかとなった。