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八重山諸島西表島で保護回収されたヒメクロウミツバメOceanodroma monorhis
河野裕美・*水谷 晃(東海大・沖縄地域研究センター)


   海洋を自由に飛び交う海鳥類の野外観察は容易ではなく,それゆえ漂着した個体から様々な情報を得ることができる。演者らは八重山諸島において,長年それらの漂着海鳥を地域の方々の協力のもとに保護回収してきた。今回議論するのは,1993年8月30日,1997年11月26日および2001年9月9日に西表島で保護された3羽のウミツバメ類である。3羽はともに全身黒褐色を呈し,全長185〜196mmと翼開長432〜443mmで非常に小さいことなどからヒメクロウミツバメOceanodroma monorhisと識別された。また3羽の体重は28.3〜35.9gであり,繁殖期に計測された本種の平均体重44.8g(n=14,佐藤 1996)よりも顕著に軽く,痩せていた。保護当時の気象は台風の接近・直撃時か,大陸側の低気圧と太平洋側の高気圧との谷にあたり,落鳥の要因は海況の悪化に伴う餌の獲得不足と考えられた。本種はロシア,韓国,中国および日本の沿岸の小島で繁殖するが,佐藤(1996)によれば9月中旬には親鳥は給餌を終え,雛は蓄えた脂肪で飛翔可能な真羽になり巣立つと考えられている。 8月と9月に保護された2羽の羽衣は磨耗が激しく,風切に換羽もみられたことから成鳥と判断され,繁殖を終えて南下中か,繁殖に参加しなかった北上分散中の個体と推察される。一方,11月に保護された1羽は,羽衣状態が良好であり,おそらく巣立ち・独立して間もない幼鳥の南下個体と判断された。琉球列島において本種は旅鳥とされるが(日本鳥学会 2001),渡り期における記録はこれまでなく,今回の3羽の保護時期は,本種の南方渡り期における本海域の通過時期を示唆する貴重な手がかりとなった。